演題「貝島家住宅(百合野山荘)
文化財調査報告書 完成!」講演録


これは、令和6年8月18日、マリーホール宮田において開かれた
第7回「貝島百合野山荘の保存と活用を考える市民の会」総会における、
百合野山荘調査・分析会議代表 辻 浩史 氏の貴重な講演記録です。 

なお、当記録・録音等の公開については、講師辻氏の御了解を得ています。
    


上図のをクリック・タップすると、講演ビデオ(スマホで撮影)が再生されます。
をクリック・タップすると、全画面表示になります。


下段は、プレゼンの全画面と音声概要です。

 

 それでは、最初の講演は、私から 昨年12月に完成しました貝島家住宅(百合野山荘)文化財調査報告書 についてその内容を説明します。
 昨年の総会では、この報告書の作成委員会の委員長でもある京都芸術大学の 仲先生が特に庭園について講演されましたが、 本日は、この調査報告書はスタッフの会が事務局を務め、纏めましたので その中身について説明いたします。
 また名称については、今日は地元で親しまれている「百合野山荘」で通します。
 


 ここにその報告書を持ってまいりました。市民の会および宮若市へは、1月にそれぞれ数冊づづお届けしてあります。

①まずその名称・タイトルについてですが、現在の百合野山荘が竣工した大正5年の百合野本家の当主は、六太郎家を継いだ太助の次男貝島栄四郎でした。宗家を継いだ長男の栄三郎と太助がこの少し前に亡くなりましたので、この時栄四郎は、貝島炭礦2代目社長で、一族会の会長でもありました。
 また、その調査内容は、庭園と建造物に関する文化財的価値調査書です。
 タイトルは「貝島家住宅(旧貝島栄四郎邸)庭園・建造物調査報告書」です。

②また、福岡県は、平成30年に100件近い数の重要な近代和風建築集を作成し、その中で炭鉱経営者住宅では旧伊藤傳衛門邸、旧蔵内邸とともに、その価値を高く評価しています。
 この2件は地元所有自治体が作成しましたが、宮若市は腰が重く、動かなかったため、所有者である貝島化学工業社に、報告書の作成して欲しいと申し込みがあり、会長・社長も我々の進言を入れて、委員会と報告書の作成を了承されました。
 

①この報告書の特徴です。
 1)庭園(名勝)と建造物(重要文化財)に対するの2本立ての調査書です。
 因みに伊藤伝衛門・旧蔵内邸などは、このように庭園と建造物別々に造っています。
 2)報告書の作成は、通常個人所有であっても県の指導の元、地元自治体が国の補助金を活用して作成することが普通ですが、今回は(委員会及び現地調査・測量・設計図作成、論文執筆、製本印刷など) すべての費用を所有者が負担しています。
 3)また委員方々は、県に指導頂き、それぞれの分野を専門とするの研究者の方々です。

②12月に完成してから、今年1月末までに、文化庁・県文化財保護課へ提出し、その後福岡県の各自治体,全国の文化財を扱う博物館、関係機関に送付しました。
 今後、工学系の学部のある大学などにも送る予定です。

③今の状況は、すでに文化庁とは、名勝指定に関するの審議を事前にWeb会議を行い、いい感触を得ていますが、宮若市の社会教育課に作成いただく「意見具申書」に関して協議中で、9月に県との3者会議を再度行い、来年1月提出を目指します。
 

 委員長は、日本庭園が専門の京都芸術大学の仲教授。蔵内邸、伝衛門邸や御花・仙厳園などにも携わり、文化庁の審議員もされていました。
 副委員長は、日本建築史、特に木造建築が専門の有明高専の松岡教授。この方は、近代和風建築から神社まで、福岡県を中心に研究され、近畿大学の川上元教授と一緒に、最初に炭礦経営者の住宅を研究をされた方です。
 委員では、近代史が専門で九州歴史資料館の渡部学芸員。
 それから、河上設計事務所の河上所長。福岡県の重要文化財調査に数多く携わり、委員会発足前から調査を依頼していましたが残念ながら、就任されてから2か月後にお亡くなりになりました。
 しかし、それまで、作成されていた図面、写真、保全調査など調査報告書に採用しています。
 そして、所有者として貝島化学工業㈱の貝島義朗社長です。

②事務局は、スタッフの会が務めました。専門の技術的アドバイザーとして第2部の講演者でヘリテージマネジャーの中島孝行アトリエの中島代表に支援いただきました。

③オブザーバーとして、県文化財保護課の皆様
(杉原参事と建造物・庭園がそれぞれ専門の松本・野木両技師と正田氏。)
 宮若市からは社会教育課の福岡課長補佐。
 そのほか、庭園・建物調査と編集は、修復技術システムの田上社長、川邊課長。
 また、市民の会の原田会長以下、山崎・筌場氏にも参加いただきました。
 

 つづいて、
①その文化財調査委員会会議日程です。
 2021年(令和3年)の2月の第1回から昨年夏のまで約3年半年置きに5回にわたる委員会を開催しました。
 スクリーンの右の写真はその模様です。途中、コロナ禍でweb会議となったこともありました。
 昨年7月最後の第5回の会議を開催し、その後修正した「調査報告書」の完成版の承認を頂き、12月に製本(450冊)が作成しました。
 

①その調査報告書の構成、目次は、
 1)序文、挨拶、口絵
 2)貝島炭礦史~貝島家の歴史:渡部委員
 3)住宅の文化財的価値評価:松岡委員
 4)庭園の文化財的価値評価:仲委員
 5)今後の保存活用:特に保存について:中島アトリエ
 6)最後に調査・作成した資料・図面(河上委員・修復技術)で作成・構成されています。
 
 貝島炭鉱の歴史と百合野山荘の文化財的価値をそれぞれの専門家が分析・評価した200pに及ぶ調査書であります。
 
 

 そこで本日は百合野大きな特徴である規模についての比較です。

①左の大きな緑の敷地が百合野、敷地面積27,000坪で圧倒的な広さを誇ります。
 右はこの報告書でも取り上げていますほかの炭礦経営者の庭園です。
 上から旧伊藤伝衛門邸、旧蔵内邸、そして唐津の旧高取邸です。
 ご覧のように、ほかは2,000~3,000坪といわゆる「庭園」のみの敷地です。
 あまりの違いにびっくりされるでしょう。 
 建物も4つの蔵と合わせ514坪と大きく他を凌駕しています。

②また、現在全国に名勝指定は現在287件あるそうですが、
 3万坪近い名勝庭園となると、ご覧のように皆さんよくご存じの大名家の庭園です。
 九州では、水前寺、鹿児島仙厳園ですが、それ以上の規模です。

 ここでウンチクを、みなさんご存じの世界でも有名な「足立美術館庭園」と「桂離宮)は、入っていません。
 足立は絵葉書的な落ち葉一つ落ちていない奇麗さと横山大観の絵で有名ですが、その歴史と、企業所有のためではないでしょうか。
 桂離宮も、宮内庁(天皇家)の持ち物ですから、入りません。

③また今、文化庁は、文化財を地域活性化の核として活用するため、これまでの規制をゆるめ柔軟な活用計画を推進していす。
 名勝指定内であっても営利目的の施設を認め、特に百合野は広大な敷地を生かして、宮若に素晴らしい観光地が作られることを期待していました。

 
 
 

そこでこの広大な敷地の特徴です。

 敷地は、大きく3つのゾーンに分かれ、北側から住居のある生活・接遇空間の台地部、現在梅林が広がり、以前は果樹園、田んぼ、牧場などのあった生活空間の谷部、そして、神社、慰霊碑、展望四阿などのあった信仰の空間の山部で構成され、ご覧のように古い写真で、果樹園な牧場なども確認されて、炭礦経営者の日常の生活環境が唯一残されたの住宅です。
 
 
 

ここで、庭園の文化財的価値と評価です。

①その評価軸は、スクリーンの 1) 2) 3) 4)とその価値評価を行っています。
 詳細は、報告書をご覧ください。

②そして最終評価は
 本庭園に見られる、広大な敷地とここから眺望される景観は、「筑豊」の風土そのものであり、接遇と日常生活空間を複合した雄大なランドスケープ空間としての構成が、近代庭園として文化財的価値を評価しています。
 
 

続いて 建造物については簡単に
①評価軸は4つ
 1)
 2)
 3)
 4)
 です。

②建造物の文化財的価値評価は、その平面構成が明確で、動線も明快であり、一気の建設され計画性が優れています。
 室内意匠は控えめですが、端正な造りを志向した結果、ほかの住宅とは、質的に異なる表現の邸宅となりました。
 また、建設時の資料も多数残されその資料からも住宅の価値評価ができる稀有な存在です。
 
 

 百合野山荘の庭園・建造物の文化財的価値をまとめますと
 1)貝島炭礦と数多くの貝島家住宅の中で、本拠地である
 旧宮田町に、建設時のまま唯一残る炭鉱遺産である。 
 2)炭礦経営者住宅の中でも、最も広大な敷地を活用し、その生活環境が分かり、特に住宅はその明快な平面構成と匠の技が、近代和風建築として完成された文化財です。
 3)庭園・建物とも圧倒的規模で、大正5年に一気に新築完成し、建設時の資料が数多く残る貴重な住宅です。
 
 と結んでいます。
 

①まず名勝指定に関するスケジュールが見えてきた段階で
1)今までの委員の方を含めた「保存・活用委員会」を設立して、補助金を活用を考慮しながら、復元整備・将来構想・運用などの「保存・活用計画書」を作ります。 
 それには所有者だけではなく、専門家及び広く地域の皆さんや筑豊の他の自治体にも協力いただき、ご意見等を反映し魅力ある計画書とします。 
2)合わせて法人化を含めた、運用・管理体制も検討します。

②そして名勝指定後は、公開が条件になりますので保存・活用計画の実施策を、短・中・長期に分けて復元保存と活用施設を整備していきます。
 また、法人化は、次の住宅の重要文化財指定をにらみ、所有形態と運営を体制を決定します。

 こうしたことからも、今後ますます市民の会に皆様の支援が必要です。
 
 

 以上で説明を終わりますが、
 今文化庁は申しました通り 文化財を地域創生の核とした柔軟な文化財運営に切り替えました。


「百合野山荘の保存と活用を考える市民の会」を益々発展させ今後ともご支援いただき、宮若市と筑豊を元気にしていきましょう。

 市民の会の発展を祈念し講演を終わります。

 ご清聴ありがとうございました。
   
 
 
 



背景画像:竹林道全景(右赤矢印)